平成14年作
奈良博で赤い紐を付けた水晶の念珠で、
親玉に金銅の輪宝型金具が被せてあるものを見たことがありました。
こんな美しいものがあるのかと、強く印象に残りました。
古代において勾玉の首飾りなどで装っていた我が民族が、
中世においては玉類で身を飾ることをしなくなります。
それは菩薩の専権として遠慮したのでしょうか。
その代り肖像画では男女とも美しい念珠を持って描かれていることが多く、
世俗的にはそれが装身具として機能したのかもしれません。
さて当時私はトンボ玉なども作っているころでしたが、
東博の法隆寺献納宝物の中に、
蜻蛉玉金剛子念珠のあることを知り、
これを作ってみようと思い立ちました。
幸い知り合いのご住職(当時は副住職)が注文して下さり、
早速着手いたしました。
菩提樹玉の大きさに合わせて作りましたので、
原品より大振りな念珠となりましたが、ご住職に水晶玉をご提供頂き、
また特大の親玉を苦労して入手して頂きました。
蜻蛉玉は黒に近い濃紺の地に赤白青黄の粒を散らせたものです。
五色の緑が青になっていますが、このような思想もあったのでしょうか。
菩提樹玉は蘇芳で染めてみました。
親玉の金銅金具は鎌倉時代の輪宝をアレンジして作っています。
露玉にかぶせてある金銅金具は、
中尊寺の藤原秀衡の棺中にあったものを模造してみました。
このような小さな残欠部品でも、
それが本来あった位置にもどして復元することは、
実にたのしい作業です。
この念珠を納める合子も作ってみました。
私が図面を引き、それをご住職が挽物師に頼んでくれて、
漆を塗って仕上げました。
三方に金銅の羯磨形紐金具をつけています。
内張りの綾と念珠及び合子の紐は、
西岡甲房の西岡夫妻からご提供頂きました。
多様な技法と材質が組み合わさった、
いかにも中世的な、そして現代離れしたこの念珠作りは、
特別印象に残る仕事になりました。