腰刀の残欠を入手された方からの依頼で修復したものです。
北海道から出た物とのことでした。
アイヌには和人の古い刀装を特別な力を持つ宝物として珍重する習俗がありましたが、
伝わる物の大半は最初からアイヌ向けに作られたもので、
実用にならない儀器としてつくられ、造形にも誇張が目立つものです。
しかし中には本当に古い実用品が混ざっている事があり、
この腰刀がそうなのです。
いちばん下の写真が依頼された時の状態ですが、
当初は栗形を取り付ける穴が丸鋲で塞がれ返角の位置に
栗形が半田付けされていたということです。
幸い柄はそのまま形が残っていましたし、
鞘も透金具が栗形から鞘尻まで覆うものでしたので、
拵のラインを復元することは出来ました。
ただ栗形から鞘口までの長さが不明で、これは推定するしかありませんでしたので、
同時代で大きさも近い京博の牡丹造梅花鮫鞘腰刀の長さで作りました。
透金具もその下の地板も銀銅合金で作られ、
透金具に躍動感のある波が表現され鍍金を施されています。
柄の地板で透金具の下になっていた部分は、今でも鏡面状に光っていて、
当初は銀色に光る地板に金色の透金具が重なり輝いていたことでしょう。
失われた鞘の地板を復元し小柄櫃と笄櫃を付けると、拵の姿がよみがえってきます。
鞘の透金具は表側二か所、裏側一か所大きく欠損していましたが、
折損部の痕跡から図案を復元してみました。
他に返角、縁、鞘口、鐺等の欠損部品を補って完成させました。
全体に古色をつけて雰囲気を壊さないようにしています。
補ったところが分かるように古色は付けるべきではないという意見もありますが、
要はどこを補ったか分かるようにしておけばいいので、中鞘に墨書しています。
平成26年修復。