春日大社の重要文化財柏木兎腰刀の模造。
平成19年作。
この美しい拵は素人目にも魅力的で、
刀装を志した当初から作ってみたいと思っていました。
ミニチュアで試作したりして研究しましたが、
どうしても本物を調査したいと思って
春日大社にいきなり名刺も持たずに行って、門前払いされました。
自分のやろうとしていることがどういうことなのか、
思い知らされた有難い経験でした。
ケース越しの観察と日本刀大鑑のデータ等から原寸大の作品を作って、
原品を直接見たことのある博物館の方の意見を聞いたりしましたが、
抽象的な批判ばかりで歯がゆいおもいをしました。
それが河内国平氏のお知り合いの方のご尽力で原品を拝見できることになりました。
しかも春日大社の腰刀全部です。平成4年の事でした。
気を落ち着けて優先順位を決め、ポイントをおさえて調査させて頂きました。
この拵の特徴はそのきわめて薄い造りにあります。
実見前の作品では、小柄櫃や笄櫃は作ってみたものの、
実用品が入るような造り込みはできませんでした。
原品は櫃の部分を少し厚く作ることで、
しっかりした実用のものが収まるようになっていて、
櫃の内部は角の板で補強されている等、
実際に使われていた時代の雰囲気が感じられました。
データがとれてもそのとうりに作るのは大変で、
金工的な精度で木工をすることになりますが、
それが昔の人の仕事なのです。
鞘の塗りはうっすらと刷毛目が残り、フシもみられますが、
ピカピカの蝋色塗では出しえない上品さが感じられます。
柄の赤銅の筒金には柏の木が州浜に根をはって、
太い幹が立ち上がっていますが、
展開図にしてみると空間いっぱいにうねるように枝葉を伸ばす様が見事です。
強弱の抑揚に富んだ蹴彫りで彫られています。
木兎の目貫は銀銅合金の薄板を打ち出して鍍金したものでそれを再現しましたが、
原品の猛禽類の据わった目の表現にはまだまだです。
下げ緒には西岡千鶴氏が中世よく使われた亀甲打ちを、
当時の製法(クテ打ち)で再現してくださった。
平成20年の日刀保新作名刀展彫金の部に出品し努力賞。
授賞式の講評で笄の樋定規の端が丸いことにクレームがつけられました。
何時からこの文様を樋定規と言うようになったのかは知りませんが、
中世の人が定規を念頭に置いていなかったのは確かで、
本当に古い物は両端が丸くなっています。
私の作品は大宰府の発掘資料を参考にしています。
古い笄に多いこの一本線状の文様は、
おそらく当初骨で作ることが普通だった笄に、
髄の痕が溝状に残っていたなごりだと思われます。