国宝の太刀小龍景光の模造です。
本歌は磨り上げられて、龍の彫りが半ば以上隠れてしまっています。
それを制作当初の姿に再現しようと思い、大野義光氏の協力を得て着手しました。
刀身彫刻は初めてのことでしたので、
正直に言ってなかなか鏨を入れることができませんでした。
しかしいったん始めてしまえば、いつものパターンで、
作業をしながら鏨や道具を工夫して彫ってゆきました。
この龍は通常刀身彫刻で刻まれるものと異なり、
鎌倉時代の仏教美術の倶利伽羅龍そのものですので、
それをどこまで再現できるかが一番の課題となりました。
本歌の龍を見て先ず感じるのは、手足の爪の鋭さ、
胴から腰にかけての生々しい動き等の生命感のある表現でしたので、
そのことに注意をして彫りました。
この太刀は平成18年の日刀保の新作名刀展刀身彫の部に出品し入選となりました。
審査員の講評で樋の止めをもっと深くすることとか、
裏の梵字が棟寄りになりすぎているなどと指摘されましたが、
本歌がそうなっていますし彫刻としてそれが問題であるとは思いません。
龍本体については、いろいろ課題を残していると思っています。