黒漆太刀は中世に最も多く使用されていた太刀ですが、
今はほとんど残っていません。
これは現存する中世の刀装のほとんどが、
神社に奉納されていたために残ったということで、
そのため刀装の種類が奉納によく用いられた形式に偏っているからなのです。
しかし中世の絵巻物の情景を現実に再現してみたい私にとっては、
ぜひとも作らなければならないものでした。
二荒山神社の国宝来国俊の小太刀の拵はほぼ金具がそろっているもので、
これを尋常のサイズに拡大すれば典型的な黒漆太刀になると考えて作りました。
原品は皮で蛭巻にして漆をかけています。
しかしこの神社には刃長7尺を超える大太刀を筆頭にいろんなサイズの太刀があって、
その多くが蛭巻になっています。
これはある時いろんなサイズの蛭巻の太刀が
セットで調進されたのではないかと考えています。
柄は木柄に細い皮を粗く巻き軽く漆を塗った素朴な物ですが、
兜金、特にその猿手の座金物は兵庫鎖太刀でも高級品についているような物です。
これに対し石突は粗製で、バランスを欠いています。
したがって、本来別の形の外装であったものを、
金具を流用し石突を補って蛭巻の太刀としてセットに加えたのではないでしょうか。
私の作品は柄に鮫皮を巻いて黒漆を塗り、
鞘は薄く鋤いた生皮で包んで黒漆を塗って、基本的な黒漆太刀として仕上げました。
原品は芝引がありませんが,責金物にそれを通す切り欠きがありますので、
芝引をつけ、石突は兜金と同様の形式の物をつけてまとめています。
柄巻は仮に馬皮を片手巻にしています。
刀身は大野義光氏の作です。
平成9年 日刀保の第50回刀剣研磨、外装技術発表会に出品。入選。