これは米国製の制作キットを友人に頼まれて作ったものです。
漆を塗ったり、部品の細部をアレンジしたりしていますが、
私の作品とは言い難い物です。
ここに取り上げたのは、この楽器が、
私がこだわっている中世の作品と共通する要素を持っているからです。
蚊のなくような小さな音で、しかも素朴なキーの構造故にカタカタと雑音も入ります。
友人の家で古楽器奏者の方を招いての演奏会が開かれた時、
音が小さいために皆静かに集中して聞かざるを得ませんが、
そうすると不思議にも音の小ささやキーの雑音等全く気にならずに演奏を味わうことができました。
この楽器はキーの先端に取り付けられた金属片が弦を突き上げて音を出す仕組みになっていますが、
そのため鍵盤楽器でありながらビブラートが出来るなど表現力が豊かです。
即物的にみた欠陥を問題にするより表現される内容に注意が向けられていることが感じられます。
このことは中世の工芸作品についても同様で、
現代人の感覚では疵とか欠陥と思えるところがあっても、
その本質に共感できればそれが味にさえなってしまうものです。