上野の博物館へようこそ。
当館は私の作品を展示する場として設立いたしました。
法学部在学中に、考古学に没頭した私は、
卒業後司法試験を言い訳にして、20代を過ごしました。
30歳を過ぎて言い訳もできなくなった時、
物作りで生きて行こうと決心しました。
古い物が好きでしたので、文化財の復元のような仕事がやりたいと考えて、
以来30数年色々な物を作ってきました。
当初は誰かに教わらないと、このような仕事はできないと思っていましたが、
古い物を見たとき、現行の技術や価値観とは大きな違いがあり、
リアルな再現をする為には原品を詳しく調査して、物から直接学ぶ以外にないと確信しました。
刀装等は分業で作るのが一般的ですが、私は刀身と組紐以外は自作します。
作品全体の統一感ということもありますが、
何より、多岐にわたる実作経験の積み重ねが、
物に刻まれた痕跡の意味を、読み解く為の前提になるからです、
製作者の本音は誰でも、作りたい物を作りたいように作ることだとおもいますが、
私の場合それが、文化財の優品をできるだけリアルに再現するということでした。
しかしながら、現行の美術界では、このような活動は異端とされ、
正面から評価されることもなく、作品の発表も難しい状況にありました。
それがインターネットの時代となり、私も遅ればせながら、このような発表の場を持つことが出来ました。
個性とかオリジナリティー等といった言葉もなかった時代に、多くの美しい物が作られました。
何の能書きも伴わず、誰が作ったのかも分からないこれらの物が、
現代人の心をとらえるのは何故なのか、今後も作品を作りながら考えて行きたいと思っています。
ごあいさつがくどくなってしまいましたが、
私が今まで制作活動を続けることができましたのも、
貴重な文化財を見せてくださった、博物館の先生方、神社の宮司様や宝物館の皆様、
個人の所蔵家の方々、古美術商の方々、全くの素人の私に技術の手ほどきをしてくださった製作者の方々、
そして作品をお買い上げ下さったお客様、等の多くのお力添えがあったからに他なりません。
展示作品の一つ一つにその思い出がつまっています。
この場を借りて厚く御礼申し上げます。
本日は、ご来館ありがとうございました。
お楽しみいただければ幸いです。
今後も少しずつ展示作品を作って行きますので、
どうぞよろしくお願いいたします。
平成27年11月
上野修路