太刀金具の多くが鋳造であることが分かり、その練習のために始めたのが銅印作りでした。
乾燥不十分な鋳型に流し込んで火山の爆発のように溶銅が吹きあげたこともありました。
鋳造による銅印の作り方は、
1)蝋の原型に左字で彫りこみ、鋳型に込めて鋳造する。基本的に篆刻と同様の技法。
2)鋳型に直接右字で彫りこむ方法。
3)字そのものを蝋板等を折り曲げるなどして個別に作り、それを鋳型に込める。
の3種類ありますが、現在2)のやりかたでつくっています。
彫りこんだ字の底が印面になるので、それが平面になるように彫るのが難しいところです。
通常の金工は鏨等で細部まで意識して造形しますが、
この銅印作りは半ば偶然の産物でそこがまた面白いところでもあります。
古い銅印には鋳型を彫る段階ではしっかり字画を刻んでいるのに湯廻り不足で判読できなくなっているものもありますが、
神意を帯びた霊的なものとしてそれをそのまま受け止めていたように思われます。
銅印には書としての側面以外に金工作品としての側面があります。
鈕の形等は密教法具の緊張感のある厳しい造形とは異なり、細部にこだわらずおおらかに作っています。
昔の人の造形感覚のもうひとつの面を見る思いです。
また地金は深みのある古銅色をしていますが、そのための微量の合金成分や表面の腐食及び色揚げなど、
刀装や仏教美術等の分野とも共通する基礎研究にもなりました。
注文で作る他は毎年の年賀状用に作ったものが多く、一石三鳥にも四鳥にもなる横着な私むきの銅印作りです。